一体いつからーーーーーーー
当たりがどこかにあると錯覚していた?
帯に【あなたも「Z世代化」している!?】と書いているように、Z世代ってどう接したらいいのかわからない、何を考えているのかわからないと感じている中年世代をメインターゲットとして想定していると思われる。著者自身も若者に何度もイライラさせられたと明言しており、なかなか手厳しい記述も随所にみられる。しかしそれでもなお本書は若者を他者として切り離して発せられる罵倒では決してなく、むしろZ世代を同胞として包摂して送られるエールであり、Z世代にこそ一読をお勧めしたい。
第1章 Z世代の住処、第2章 消費の主役・Z世代ではZ世代の実態に焦点が当てられている。Z世代とはどんな世代なのかを読者に伝えるいわば導入編である。クリストファーノーランの「インセプション」に代表されるように、面白いコンテンツは導入編から面白いのだが、本書もそのようなコンテンツの一つである。普段からZ世代と接している大学教授である著者が外部のデータだけに頼るのではなく生の声をもとにZ世代の説明をするのだが、かなり解像度が高い。Z世代的には「あるある」として楽しめると思うが、1世代上の人間(失礼)がこの解像度で下の世代のことを記述するのってかなり難しいと思う。Z世代滑り込みの自分ですら「たしかに後輩こんな感じだったかも……」というレベルでしか理解できていない習性なども書かれていてとても驚いた。誠実に若者と向き合っていたのであろうことが伺える。
第3章 唯言が駆動する非倫理的ビジネス、第4章 劇的な成長神話では、「モバイルプランナー」という、Z世代の間で流行したビジネスを軸として「非倫理的ビジネス」と「就活ビジネス」について論じられている。「就活ビジネス」、もっと言うと新卒採用をしている会社なども含む就活産業全般に対して鬱陶しさ、胡散臭さ、怒り、蔑みを感じていた一方で、就職できるのかという不安も悔しいことに抱えてしまっていた当時就活生の自分に読ませてあげたい。
第5章 消えるブラック、消えない不安では入社後の若手社員について考察している。まさに現在の自分がこの対象にあたるのでこの章は自分が主役になった気分で読めた。この章は特に語りたいテーマが満載であるが、成長が唯言的な概念だとする箇所が特に面白かった。成長って大事なものだと思う一方で、すぐに成長という言葉を持ち出す企業、セミナー講師、就活生に対しては成長って何を指しているの?定義できてる?成長って言えばいいと思ってない?と冷笑的に見てしまう自分がいた(今もそう)。本書でいう成長実感を成長と呼んでいるのが気に食わなかったのかなという気もする。(知らんけど)
第6章 不安と唯言のはてにでは、不安に苦しむZ世代に対して、生きやすくなるような考え方を伝授している。たくさんのアドバイスが書かれているが、なかでももっと余裕を持つべきであるというのが一番心に刺さった。スポーツ経験が無くても、部活に入った経験がなくても、内定を持ってなくても、ガチで危機感を持たなくていい。教授である著者がそういった余裕、つまり知性へのゆるぎない信頼を獲得するために教育があると発言しているのはとても頼もしい。
本書はとてもタイパが悪い。語りたくなるテーマがあちこちにちりばめられていて内容が面白いのは当然として、柔らかい文と硬い文が混在するアクロバティックな文体、括弧で書かれるセルフツッコミ、京都風のいけずな毒舌などなど、文章それ自体が面白い。内容も形式も面白くて何度も読みたくなってしまう、さらっと読んだだけで終わるにはあまりにもったいない本である。根拠はないが、私の知性はそう確信している。