帯を見ただけでも
「イノベーションはテクノロジーではなくMXから生まれる(マウンティングエクスペリエンス)」
「大事なのは「マウントフルネス」」
など、読書欲を掻き立てる文言が並んでいるが、折り返し部分にも
「マウンティングこそ最強の教養」
「マウンティングを制する者が人生を制する」
と書かれているように、本書はパンチラインで埋め尽くされている。
この本の面白さについて考えた時に、真っ先に頭に浮かんだのが、「クイズ☆タレント名鑑」と「まさかのバーサーカー」の違いについてだった。
「クイズ☆タレント名鑑」は当時の生きがいだったと言っても過言ではないほど熱中できたのに、「まさかのバーサーカー」はいまいちピンとこなかった。その理由は、スタンスの違いに由来するものだった。
「クイズ☆タレント名鑑」では、司会進行役(淳とマスパン)があくまでクイズ番組として、しかもいたって真剣なクイズ番組だという体で、司会役をこなしている。クイズで大喜利を楽しみたいのにすぐに正解を出してしまうクリス松村を窘めるのは飽くまで回答者の有吉であるし、検索ワードは当然ランダムに選ばれている。また、少ないヒントで答えが出た時や、回答者が真剣に悩んだ結果ようやく正しい答えが出た時などは、シンプルにクイズとしての面白さが味わえる。ドボンを引いたら0点になってしまうなど、点数に対してもかなりシビアである。
一方で、「まさかのバーサーカー」はそもそもVTR自体がお笑いに寄せたものであり、途中に挟まれるクイズも大喜利をしてくださいと言わんばかりの内容である。初回放送では「山里亮太のクイズ!?まさかのバーサーカー」とクイズ番組であることが明示されていたのだが、放送を重ねるにつれてやがて番組タイトルからクイズという言葉は消えてなくなる。
番組の思想としてお笑いを前面に出そうとしているのであろう。こちらが勝手に「クイズ☆タレント名鑑」のテイストを期待して勝手にがっかりしているだけなので、こんな文句はお門違いである。しかし、一見同系統と思われる番組の出現によって、より一層藤井健太郎の体裁へのこだわりが浮き彫りになっている。
話を戻すと、本書はビジネス書という体裁を保ちつついかにふざけられるかを突き詰めた本としか思えなかった。しかし、本文中には明示的にビジネス書を揶揄するような内容は1mmも無く、あくまで真面目なビジネス書として書かれているのが素晴らしい。しかも「マウントさせて相手を立てることで味方になってもらう」、「エリートは絶え間ない自己アピールが求められるため、常に他者との差別化が求められ、マウンティングをせざるを得ない」といった、なかなか鋭いと思わされるような洞察も顔を覗かせる。
本音と建前という言葉がある。建前なぞ、コミュニケーションコストを増大させるだけの不要な文化だと考えていたが、より本音を際立たせるためのフリとして使いこなせるのが一流なのかもしれない。