センスに関する本と言われると、どのような本を想像するだろうか。
〇〇のセンスの磨き方。□□のセンスが良くなる本。
何らかの特定の分野についての、センスの向上を謳う本を想像するのではないだろうか。
本書はそうではなくて、センスとは何かを定義する本である。
様々な視点から筆者はセンスを定義しているが、「センスとは、物事を意味や目的でまとめようとせず、ただそれを、いろんな要素のデコボコ=リズムとして楽しむことである」という定義を抑えていれば「なるほど、だいたいわかりましたよ」と呟いても問題はないだろう。
センスについて興味深い内容がてんこ盛りであるが、中でも「エンタメ寄りの小説論では、余計な描写を避けると言われたりしますが、それは読者に、本筋から離れた連想の負担をかけないようにするためでしょう。それに比べると、純文学において細かな描写というのはすごく重要なものなんですね。」という一節ががとても印象に残った。
自分は今まで小説やその他コンテンツにおいて意味にかなり重きを置いて楽しんでいたんだろうな、と気づかされた。逆に「意味」のない純文学やアート作品をあまり楽しめなかった、というより楽しみ方を知らなかったんだろうな、とも。
ちょうどセンスの哲学を読み終えたタイミングで「悪は存在しない」という映画を観た。
センスの哲学を読んでいなければよくわからんな、だけで終わっていたと思う。
しかしこの本のお陰でリズムを意識しながら鑑賞することができて、よくわからないながらリズムを感じ取ろうと意識することでリズムを楽しむことができた。その一方で「意味」も楽しむことができるかなり贅沢な映画だと思うので、こちらもぜひ見てほしい。