そう、「科学を再び退屈なものにする」のだ。
再現性の危機を契機として、実は論文で示されている実験は捏造されているものが数多くあることが判明した。そんな現在の科学界を憂いた心理学者である著者が、科学界をあるべき姿に戻すために科学界の悲惨な現状を皮肉交じりに白日の下に晒しつつ、解決策を丁寧に示しているのが本書。
冒頭の引用は、現代の科学者がドラマさながらに斬新な大発見をしたがる傾向があるけれども、目を引くようなものでなくても、科学の発展のためには再現研究やNULL(新しい発見が見つからないこと)の結果をコツコツ蓄積していくことが大事だ、という主張をまとめた一言である。
露悪的でキャッチーでありながら、過剰な煽りというわけでもなく、そして主張とも完全に合致している。著者の才能なのか、訳者のセンスが光っているのか、おそらくそのどちらもであろうが、本書は内容もさることながら、文章自体が惚れ惚れするほど魅力的である。
論文が最多撤回されている日本人の名前や、「統計的に有意」と宣言するための条件を満たさなかった場合に使用されがちな表現のコレクションなど、性格の悪い人間がニヤリとできるようなおまけも随所にちりばめられている。著者の期待通りに科学が退屈なものになったとしても、この読書体験は刺激的なままである。